急性膵炎の初期対応

救急外来などで急性膵炎に遭遇した場合の初期対応を、エビデンスに基づいてまとめました。

急性膵炎の定義

  • 膵臓の急性炎症で他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼしうるもの。
  • 病態としては膵の自己消化が起こっている。
  • 原因としてはアルコール(33.5%)、胆石(26.9%)、術後(2.3%)、ERCP(1.9%)、脂質異常症(1.8%)、膵腫瘍(1.7%)、薬物(0.8%)。原因不明の特発性が16.7%

急性膵炎の診断基準

以下の3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。

  1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
  2. 血中または尿中に膵酵素(膵アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇がある
  3. 超音波、CT、MRIで膵臓に急性膵炎を示す所見がある

急性膵炎の急性膵炎の画像所見CT

  • 造影CTが基本(できればダイナミック)
  • 膵腫大、膵周囲から後腹膜腔の脂肪組織濃度の上昇、液体貯留など


(参考画像:医師国家試験111I79より)

急性膵炎の初期治療

基本方針

①絶食
②十分な輸液
③除痛
(④胆石性かどうか)
+ 繰り返す重症度評価

①絶食

治療の基本は絶食。ただし重症であっても可能な限り48h以内に経腸栄養を開始する。

②十分な輸液(モニタリングと共に)

  • ショックor脱水→過剰輸液に注意して150ml-600mL/hで細胞外液を。
  • 脱水ではない→150ml/h

MAP≧65mmHgと尿量0.5ml/kg/hが確保されれば輸液速度を下げる。

③除痛

(例1)フェンタニル0.1mg 0.5〜1A
(例2)ペンタゾシン(ソセゴン®) 15mg

④胆石性かどうか

胆石性膵炎であればERCPの適応について消化器内科に緊急でコンサルト

繰り返す重症度評価

  • 24h以内および24-48hの各々の時間帯で重症度を評価する。
  • 予後因子が3点以上 or 造影CT Grade 2以上で重症とする。

予後因子

1. base excess≦-3mEq/l、またはショック(sBP≦80mmHg)
2. PaO2≦60mmHg(ra)、または呼吸不全(人工呼吸器管理を必要とする)
3. BUN≧40mg/dL(or Cre≧2mg/dl)、または乏尿(輸液後も尿量が400ml/day以下)
4. LDH≧基準値上限の2倍
5. Plt≦10万/μl
6. 総Ca値≦7.5mg/dl
7. CRP≧15mg/dL
8. SIRS診断基準の陽性項目3項目以上
9. 年齢≧70歳造影CT Grade1. 炎症の膵外進展度

造影CT Grade

1. 炎症の膵外進展度
0点:前腎傍腔
1点:腸間膜根部
2点:腎下極以遠

2. 膵の造影不領域
0点:各区域or膵周辺のみ
1点:2区域にかかる
2点:2区域全体またはそれ以上
(膵頭部、膵体部、膵尾部にわける)

3. 合計スコア
1点以下:Grade 1
2点:Grade 2
3点以上:Grade 3

急性膵炎の追加治療

  • 重症ならば集中治療室入院 or 高次医療機関に搬送。
  • 重症ならば予防的抗菌薬の投与を検討する(ルーチンでは行わなくてよい)。
  • Pancreatitis Bundles 2015のすべてが行われる事が望ましい。

<Pancreatitis Bundles 2015>

・急性膵炎では、特殊な状況以外では原則的に以下のすべての項が実施されることが望ましく、実施の有無を診療録に記載する。
1.急性膵炎診断時、診断から24時間以内、および、24~48時間の各々の時間帯で、厚生労働省重症度判定基準の予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する。
2.重症急性膵炎では、診断後3時間以内に、適切な施設への転送を検討する。
3.急性膵炎では、診断後3時間以内に、病歴、血液検査、画像検査などにより、膵炎の成因を鑑別する。
4.胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪などの胆道通過障害の遷延を疑う症例には、早期のERCP + ESの施行を検討する。
5.重症急性膵炎の治療を行う施設では、造影可能な重症急性膵炎症例では、初療後3時間以内に、造影CTを行い、膵造影不良域や病変の拡がりなどを検討し、CTGradeによる重症度判定を行う。
6.急性膵炎では、発症後48時間以内は十分な輸液とモニタリングを行い、平均血圧*65mmHg以上、尿量0.5mL/kg/h以上を維持する。
7.急性膵炎では、疼痛のコントロールを行う。
8.重症急性膵炎では、発症後72時間以内に広域スペクトラムの抗菌薬の予防的投与の可否を検討する。
9.腸蟻動がなくても診断後48時間以内に経腸栄養(経空腸が望ましい)を少量から開始する。
10.胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には、膵炎沈静化後、胆嚢摘出術を行う。
(* 平均血圧 = 拡張期血圧 + (収縮期血圧 – 拡張期血圧) / 3)


POINT

  • 胃管はルーチンでは入れなくてよい。嘔気嘔吐あるときや経腸栄養開始検討ならば入れる、など。
  • 予防的抗菌薬は軽症では不要である。重症でもエビデンスが不確か。投与するならイミペネム、メロペン、シプロフロキサシンなど、膵移行性のよいものを。
  • 蛋白分解酵素も明らかなエビデンスはない。

本記事は適宜、修正加筆しています。ガイドラインの改訂や新たなエビデンスの発見などがありましたら、お気軽にコメントやお問い合わせフォームからご連絡ください。

(参考文献)
急性膵炎ガイドライン2015
救急診療指針 – 日本救急医学会専門医認定委員会2018
ER実践ハンドブック羊土社,2015
J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2015 Jun;22(6):433-45.

#急性膵炎 #救急外来 #診断基準 #エビデンス #ガイドライン #ドクターフェロー

Dr.Fellowは医師・医大生限定のクローズドなプラットフォームです。全国の医師同士で医療情報を共有し、知識を広げませんか? ご登録はコチラからどうぞ。

医師・医大生ライターも募集中!お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です