大動脈瘤は症状がなく、他疾患などの精査で偶発的に見つかることも少なくありません。ご自身の外来に大動脈瘤の患者さんが来た時の、診療の一助にしていただけたらと思います。
※以下、胸部大動脈瘤(TAA)、腹部大動脈瘤(AAA)と記載します。
目次
大動脈瘤の定義
大動脈瘤は大動脈壁の一部が、全周性または局所的に拡大または突出した状態をさします。
正常動脈径の1.5倍以上(TAA 45mm, AAA 30mm)を瘤と定義します。それ以外は動脈拡張とよびます。
大動脈瘤の原因
多くは動脈硬化が原因となりますが、感染、炎症、自己免疫、外傷、先天性などが原因になることもあります。
感染性動脈瘤は、感染性心内膜炎、抜歯、尿路感染など様々な感染症の後に生じることがあります。
炎症性動脈瘤はIgG4関連疾患との関連も報告されています。
大動脈瘤の症状
基本的に動脈瘤だけでは無症状ですので、偶然に発見されることが多いですが、最も危険な症状は疼痛です。疼痛がみられた場合は要注意!破裂した急性期や、切迫破裂の際には胸部・背部の激痛を訴えることがあります。動脈瘤を有している患者が、我慢できない疼痛を訴えた場合にはすぐに検査を行いましょう。
その他、比較的まれですが他臓器を圧迫することで症状が出現することがあります。
- TAA:嗄声(反回神経)、嚥下障害(食道圧排)、顔面浮腫(静脈圧排)
- AAA:腹部膨満身体所見
(AAAでは拍動性腫瘤を触知することが多く、健康診断などで発見されることも多い)
大動脈瘤の画像検査
胸部Xp、腹部US、胸腹部造影CTが有用です。
スクリーニングは胸部Xp(TAA)と腹部超音波(AAA)。
胸腹部造影CTは瘤の形状や治療法を検討する上で非常に重要です。
<AAAの造営CT所見>
<AAAの3D-CT所見>
(参考画像:医師国家試験112D68, 112A45)
大動脈瘤の治療適応
有症状、嚢状、急速増大(5mm以上/半年)は、早急な手術が必要となります。
紡錘状動脈瘤の場合は以下の目安で治療適応となります。
- 胸部/胸腹部大動脈瘤:60mm以上
- 腹部大動脈瘤:50mm以上(女性は45mm以上)
上記の瘤を初診でみた場合には、すぐに専門医へコンサルトしてください!
破裂性大動脈瘤の場合は、緊急手術を施行したとしても3割程度の救命率です。
手術室までの時間ならびに、大動脈クランプまでの時間が生命予後に寄与するため、いかにして初期対応を迅速にするかが救命のキーポイントとなります。
大動脈瘤の治療
<動脈硬化性の動脈瘤の場合>
手術適応がなければ、適切な降圧治療を行い、半年~1年ごとに画像評価を行い瘤径の評価を行います。
瘤径が手術適応となれば、以下の手術を行います。
- 人工血管置換術
- ステントグラフト内挿術
ステントグラフト内挿術の方が身体的侵襲は低いですが、サイズや形状によっては適応外となってしまうことがあります。
ステントグラフト治療は1991年に世界で初めて行われ、日本では2006年に導入された比較的新しい手術ですが、現在は約半数の症例がステントグラフト内挿術となっています。
<その他の原因による動脈瘤の場合>
原疾患の治療が重要です。
その治療を行う中で、破裂リスクが高いと判断した場合は手術を行います。
Take Home Message
- 大動脈瘤は破裂すると致死的となるため、発見したら専門医へ必ずコンサルト。
- 高血圧・糖尿病などの全身疾患の合併が多く管理が必要。禁煙も必須。
- 破裂を疑う時(急激な腹痛/ショックなど)は速やかに単純/造影CT撮影を行う。
いかがでしたか?迅速な初期対応が大切な疾患です。私の経験では、救急外来でエコー下に大動脈をクランプした例もあります。少しでも大動脈瘤への知識を深めていただければ幸いです。
本記事は適宜、修正加筆しています。ガイドラインの改訂や新たな報告などがありましたら、お気軽にコメントやお問い合わせフォームからご連絡ください。
(参考文献)
大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン – 日本循環器学会(2011年改訂版)
Adam DJ, Bradbury AW, Stuart WP, et al. The value of computed tomography in the assessment of suspected ruptured abdominal aortic aneurysm. J Vasc Surg 1998; 27: 431-437.
2010 ACCF/ AHA/AATS/ACR/ASA/SCA/SCAI/SIR/STS/SVM guidelines for the diagnosis and management of patients with Thoracic Aortic Disease: Executive summary. Circulation 2010; 121: 1544-1579.
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