不眠症の薬物療法

不眠症は外来で遭遇頻度の比較的⾼い疾患です。成⼈の三割以上が⼊眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難などいずれかの不眠症状を有し、10%程度が不眠症に罹患しているといわれています。今回は不眠症の薬物治療についてまとめました。

不眠症治療の大前提

不眠症の治療は薬物治療だけではない。

下記の治療法を支える一部として、必要に応じて投薬するということを念頭において診察する。

  • 睡眠衛生の改善
  • 睡眠を障害する薬剤やカフェインの中止
  • 定期的な中等度の運動
  • 認知行動療法
  • 薬物治療

 

不眠症の鑑別疾患

不眠をきたす鑑別疾患や不眠をきたす薬剤使用がないかを聞き出すことも重要。

不眠症を疑う際に除外すべき緊急性の高い疾患

希死念慮の伴ううつ病は必ず「Two-Question Screen」で除外する

①「過去1ヵ月間で、気持ちが落ち込んだり、憂鬱な気分、絶望的な気分になりましたか」
②「過去1ヵ月間で、しばしば小さなことに悩まされたり、何をしても楽しくないと感じますか」

2項目とも当てはまる場合はうつ病を強く疑い、希死念慮に関する問診も躊躇しない。

 

不眠をきたす頻度の高い疾患

精神科疾患としてはうつ病不安障害、内科疾患としては気管支喘息およびCOPD(既往や喫煙歴、労作時呼吸困難や明け方の呼吸困難)、心不全(夜間の発作性呼吸困難や起坐呼吸)、睡眠時無呼吸症候群(肥満、いびきや昼間の眠気)、下肢静止不能症候群(脚がむずむずして眠れない)、甲状腺機能亢進症(甲状腺の腫大、頻脈や体重減少など)が挙げられる。また慢性疼痛による不眠も頻度が高い。

 

不眠をきたす薬剤

精神科の薬剤では抗うつ薬(SSRIなど)、内科の薬剤ではステロイドテオフィリンα刺激薬・遮断薬β遮断薬、各種利尿薬(夜間尿による覚醒)、脂質異常症治療薬甲状腺ホルモンなどで不眠を生じることがあり、内服歴を聴取する必要がある。また、鎮静薬の離脱症状として不眠がの症状があらわれることがある。

※その他カフェインアルコールの摂取についても必ず聴取する。

 

不眠症の処方例

  • 具体的な用法を記載していないものは基本的には1錠分 1就寝前 不眠時頓用 10〜14回分とし、下記に留意して処方する。
  • 睡眠障害のタイプによらず、初期治療においては超短時間もしくは短時間作用型が第1選択になることが多い
    (薬物動態は個人差が大きいため持ち越し作用などのリスクあり初期治療から長時間作用型を投与することは推奨されない)

 

精神的な素因が弱い場合、脱力やふらつきが出やすい場合

抗不安作用・筋弛緩作用が弱い薬剤を選択する

入眠障害 (短時間作用型、短時間型)

  • ゾルピデム(例:マイスリー®︎[5mg]-[10mg])
  • ゾピクロン(例:アモバン®︎[7.5mg]-[10mg])
  • エスゾピクロン(例:ルネスタ®︎[1mg]-[3mg])
  • ラメルテオン(例:ロゼレム®︎[8mg])1錠分1 就寝前 7日間

中途覚醒、早朝覚醒 (中時間型、長時間型)

  • クアゼパム(例:ドラール®︎[15mg])

 

精神的な素因が強い場合、肩こりなどを伴う場合

抗不安作用・筋弛緩作用を持つ薬剤を選択する。

入眠障害 (短時間作用型、短時間型)

  • トリアゾラム (例:例:ハルシオン®︎[0.125mg]-[0.25mg] )
  • ブロチゾラム(例:レンドルミン®︎[0.25mg])
  • エチゾラム(例:デパス®︎[1mg])
    ※不眠症に対しては1-3mgを就寝前に1回服用(高齢者は1日1.5mgまで)

中途覚醒、早朝覚醒 (中時間型、長時間型)

  • フルニトラゼパム(例:サイレース®︎[1mg]-[2mg])
  • ニトラゼパム(例:ベンザリン®︎[5mg])
  • エスタゾラム(例:ユーロジン®︎[1mg]-[2mg])

 

腎機能障害、肝機能障害がある場合

ベンゾジアゼピン系薬剤のなかでも代謝産物が活性を持たないものを選択する

入眠障害 (短時間作用型、短時間型)

  • ロルメタゼパム(例:エバミール®︎[1mg])

中途覚醒、早朝覚醒 (中時間型、長時間型)

  • ロラゼパム(例:ワイパックス®︎[0.5mg])
    【※適応病名は「不安神経症」で「不安時頓用10回分」として処方】

 

うつ病がベースとなっている場合は下記を選択する

  • ミアンセリン(例:テトラミド®︎[30mg])1錠分 1夜 7日間
  • トラゾドン(例:レスリン®︎[25mg])3錠分 1夜 7日間
  • ミルタザピン(例:リフレックス®︎[15mg])1錠分 1夜 7日間

 

その他の新機序の不眠症治療薬

  • スボレキサント(例:ベルソムラ®︎[15mg]-[20mg])1錠分 1夜 7日間
    【※成人には1日1回20mg、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に1回内服】

 

※併用禁忌等に関しましては十分ご注意ください。


本記事は適宜、修正加筆しています。ガイドラインの改訂や新たな報告などがありましたら、お気軽にコメントやお問い合わせフォームからご連絡ください。

 

(参考文献)

 

 

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